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名古屋地方裁判所 平成9年(行ウ)5号 判決 1999年5月19日

愛知県安城市安城町宮地一三番地

第五号事件原告

杉浦博幸

愛知県安城市安城町宮地一三番地

第六号事件原告

杉浦昌子

右両名訴訟代理人弁護士

桜川玄陽

愛知県刈谷市神明町三丁目五〇一番地

被告

刈谷税務署長 中田潔

右指定代理人

鈴木拓児

同右

小林孝生

同右

栗田博氏

同右

相良修

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が平成八年三月一三日付けで原告杉浦博幸に対してした次の各処分を取り消す。

1  平成四年分所得税の更正のうち総所得金額一四一二万九八三五円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

2  平成五年分所得税の更正のうち総所得金額一二五五万三八三三円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

3  平成六年分所得税の更正のうち総所得金額一四三六万一六七九円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

二  被告が平成八年三月一三日付けで原告杉浦昌子に対してした次の各処分を取り消す。

1  平成四年分所得税の更正のうち総所得金額一六〇八万七六三三円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

2  平成五年分所得税の更正のうち総所得金額一一八三万六〇八七円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

3  平成六年分所得税の更正のうち総所得金額一二一三万七一八七円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

第二事案の概要

一  争いのない事実

1(一)  原告杉浦博幸(以下「原告博幸」という。)は、平成五年三月一一日、平成四年分所得税について、次のような内容の確定申告をした。

(1) 総所得金額 一四一二万九八三五円

(2) 算出税額 三一八万一六〇〇円

(3) 源泉徴収税額 二五三万五二〇〇円

(4) 納付すべき税額 六四万六四〇〇円

(二)  被告は、平成八年三月一三日付けで、原告博幸の平成四年分所得税について、次のような内容の更正をするとともに、税額一五八万五五〇〇円の過少申告加算税賦課決定をした。

(1) 総所得金額 三八八六万五七五六円

(2) 算出税額 一四八一万九五〇〇円

(3) 源泉徴収税額 二五三万五二〇〇円

(4) 納付すべき税額 一二二八万四三〇〇円

2(一)  原告博幸は、平成六年三月一一日、平成五年分所得税について、次のような内容の確定申告をした。

(1) 総所得金額 一二五五万三八三三円

(2) 算出税額 二五四万〇〇〇〇円

(3) 源泉徴収税額 二五五万六七〇〇円

(4) 還付金の額に相当する金額 一万六七〇〇円

(九) 被告は、平成八年三月一三日付けで、原告博幸の平成五年分所得税について、次のような内容の更正をするとともに、税額一八八万〇〇〇〇円の過少申告加算税賦課決定をした。

(1) 総所得金額 四一〇九万四〇一〇円

(2) 算出税額 一五九二万〇〇〇〇円

(3) 源泉徴収税額 二五五万六七〇〇円

(4) 納付すべき税額 一三三六万三三〇〇円

3(一)  原告博幸は、平成七年三月一三日、平成六年分所得税について、次のような内容の確定申告をした。

(1) 総所得金額 一四三六万一六七九円

(2) 算出税額 三二五万四四〇〇円

(3) 特別減税額 六五万〇八八〇円

(4) 源泉徴収税額 二五三万九七〇〇円

(5) 納付すべき税額 六万三八〇〇円

(二)  被告は、平成八年三月一三日付けで、原告博幸の平成六年分所得税について、次のような内容の更正をするとともに、税額一六五万一五〇〇円の過少申告加算税賦課決定をした。

(1) 総所得金額 四二二四万六五六七円

(2) 算出税額 一六四八万五五〇〇円

(3) 特別減税額 二〇〇万〇〇〇〇円

(4) 源泉徴収税額 二五三万九七〇〇円

(5) 納付すべき税額 一一九四万五八〇〇円

4  原告博幸は、平成八年四月一五日、右1ないし3の各処分について異議申立てをしたところ、被告は、同年七月四日付けで、右の各異議申立てを棄却する旨の決定をし、原告博幸は、同月二五日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成一〇年五月二八日付けで、右の各審査請求を棄却する旨の裁決をした。

5(一)  原告杉浦昌子(以下「原告昌子」という。)は、平成五年九月九日、平成四年分所得税について、次のような内容の修正申告をした。

(1) 総所得金額 一六〇八万七六三三円

(2) 算出税額 三九一万五六〇〇円

(3) 源泉徴収税額 二九三万〇八〇〇円

(4) 納付すべき税額 九八万四八〇〇円

(5) 過少申告加算税 一万四〇〇〇円

(二)  被告は、平成八年三月一三日付けで、原告昌子の平成四年分所得税について、次のような内容の更正をするとともに、税額一一万七〇〇〇円の過少申告加算税賦課決定をした。

(1) 総所得金額 一九〇二万三三一〇円

(2) 算出税額 五〇八万九六〇〇円

(3) 源泉徴収税額 二九四万〇八〇〇円

(4) 納付すべき税額 二一五万八八〇〇円

6(一)  原告昌子は、平成六年三月一一日、平成五年分所得税について、次のような内容の確定申告をした。

(1) 総所得金額 一一八三万六〇八七円

(2) 算出税額 二二一万一二〇〇円

(3) 源泉徴収税額 二九三万〇八〇〇円

(4) 還付金の額に相当する金額

(二)  被告は、平成八年三月一三日付けで、原告昌子の平成五年分所得税について、次のような内容の更正をするとともに、税額七万円の過少申告加算税賦課決定をした。

(1) 総所得金額 一三五九万九二〇九円

(2) 算出税額 二九一万五四〇〇円

(3) 源泉徴収税額 二九三万〇八〇〇円

(4) 還付金の額に相当する金額 一万四四〇〇円

7(一)  原告昌子は、平成七年三月一三日、平成六年分所得税について、次のような内容の確定申告をした。

(1) 総所得金額 一二一三万七一八七円

(2) 算出税額 二三〇万四〇〇〇円

(3) 特別減税額 四六万〇八〇〇円

(4) 源泉徴収税額 二三四万四六〇〇円

(5) 還付金の額に相当する金額 五〇万一四〇〇円

(二)  被告は、平成八年三月一三日付けで、原告昌子の平成六年分所得税について、次のような内容の更正をするとともに、税額三万五〇〇〇円の過少申告加算税賦課決定をした。

(1) 総所得金額 一三二四万五七〇七円

(2) 算出税額 二七四万七六〇〇円

(3) 特別減税額 五四万九五二〇円

(4) 源泉徴収税額 二三四万四六〇〇円

(5) 還付金の額に相当する金額 一四万六五二〇円

8  原告昌子は、平成八年四月一五日、右5ないし7の各処分について異議申立てをしたところ、被告は、同年七月四日付けで、右5ないし7の異議申立てを棄却する旨の決定をした。原告昌子は、平成八年七月二五日、国税不服審判所長に対し、右5ないし7の各処分について審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成一〇年五月二八日付けで、右の各審査請求を棄却する旨の裁決をした。

9  原告らが主張する被告の各処分の違法事由は、総所得金額のうち不動産所得に関し、<1>別紙物件目録一記載の各土地(以下「本件各土地」という。)を賃貸して得られる賃料収入について、賃貸人である有限会社スギウラ興産(以下「スギウラ興産」という。)に帰属するとすべきところ、被告は本件各土地の所有者に帰属するとしていること、<2>別紙物件目録二記載の各建物(以下「本件各建物」という。)を賃貸して得られる貸家収入について、賃貸人である原告昌子に帰属するとすべきところ、被告は本件各建物の所有者に帰属するとしていることである。

二  争点及び争点に対する当事者の主張

1  本件各土地の賃料は、所有者に帰属するか、スギウラ興産に帰属するか(争点1)。

(被告の主張)

一  本件各土地の所有者・借地人・賃料

本件各土地の、平成四年一月から平成六年一二月における、所有者は、別紙物件目録一「所有者」欄記載のとおりであり、借地人及び賃料は、同目録一「借地人」欄及び「賃料」欄各記載のとおりである。

二  賃料の帰属

本件各土地の賃貸人は、所有者かつスギウラ興産に本件各土地の管理運用を委任した別紙物件目録一「所有者」欄記載のとおり、原告博幸の単独所有あるいは原告博幸、原告昌子及び杉浦健璽(以下「健璽」という。)の共有であるから、右各賃料収入は、所有者の収入として計上されるべきである。

1  平成四年より前の賃料収入の帰属

(一) 下管池の土地

(1) 原告博幸は、昭和五六年以降、別紙物件目録一「1 下管池」記載の土地(以下「下管池の土地」という。)を所有している。

(2)イ 原告博幸は、昭和五六年一一月一六日、中京佐川急便株式会社(以下「中京佐川」という。)との間において、下管池の土地を、賃貸借期間を三〇年、賃料月額八三万円との約定で、同社に賃貸する旨の契約を締結した。

ロ 原告博幸と中京佐川は、昭和六〇年六月六日、右契約の賃料を月額一六二万一九〇三円に増額する旨の合意をした。また、原告博幸と中京佐川は、昭和六三年七月七日、同年二月から右契約の賃料を月額二〇二万二五一三円に増額する旨の合意をした。

(3)イ 原告博幸は、昭和五八年五月四日、スギウラ興産との間において、下管池の土地の管理運用をスギウラ興産に委任し、スギウラ興産に対して賃料月額と同額の委任料を支払う旨の委任契約を締結した(なお、契約書上は賃料の管理運用を委任したと記載されているが、土地の管理運用を委任したものと解すべきである。)。

ロ 原告博幸とスギウラ興産は、賃料月額の増額改定が行われる都度、委任契約を更新し、委任料を増額後の賃料月額と同額に改定していた。

(二) 桜町の土地

(1) 原告昌子、原告博幸及び健璽は、昭和六一年当時、別紙物件目録一「2 桜町」記載の土地(以下「桜町の土地」という。)を持分各三分の一で共有していた。平成五年までに、健璽は、右持分すべてを原告昌子に譲渡した。

(2)イ スギウラ興産は、杉浦製粉株式会社(以下「杉浦製粉」という。)との間で、昭和六一年一二月一日、桜町の土地を、賃貸借期間二年、賃料月額一五万〇〇二二円との約定で、賃貸する旨の契約を締結した。

ロ スギウラ興産は、昭和六三年一二月一日付けの土地賃貸借変更契約により、賃貸借期間を昭和六三年一二月一日から三年間、賃料月額一五万七五六九円に変更し、平成三年一二月一日付けの土地賃貸借変更契約により、賃貸借期間を平成三年一二月一日から三年間、賃料月額一六万五〇七三円に変更した。

(3)イ 原告昌子、原告博幸及び健璽は、昭和六一年一二月一日、スギウラ興産との間において、桜町の土地の管理運用をスギウラ興産に委任し、スギウラ興産に対して賃料月額と同額の委任料を支払う旨の委任契約を締結した(なお、契約書上は賃料の管理運用を委任したと記載されているが、土地の管理運用を委任したものと解すべきである。)。

ロ 原告昌子、原告博幸及び健璽とスギウラ興産は、賃料月額の増額改定が行われる都度、委任契約を更新し、委任料を増額後の賃料月額と同額に改定していた。

(三) 下毛賀地の土地

(1) 原告博幸は、平成二年以降、別紙物件目録一「3 下毛賀地」記載の土地(以下「下毛賀地の土地」という。)を所有している。

(2)イ スギウラ興産は、株式会社フジケン(以下「フジケン」という。)との間で、平成二年八月一日、下毛賀地の土地を、賃貸借期間を、平成二年九月一日から一年間、賃料月額八万五〇〇〇円との約定で、賃貸する旨の契約を締結した。

ロ スギウラ興産は、フジケンとの間で、平成三年八月二八日、賃貸借期間を平成三年九月一日から三年間、賃料月額一〇万二〇〇〇円とする土地賃貸借契約を締結し、平成六年三月三一日、土地賃貸借更新契約を締結し、賃貸借期間を平成六年九月一日から三年間、賃料月額一一万二二〇〇円に変更した。

(3)イ 原告博幸は、平成二年八月一日、スギウラ興産との間において、下毛賀池の土地の管理運用をスギウラ興産に委任し、スギウラ興産に対して賃料月額と同額の委任料を支払う旨の委任契約を締結した(なお、契約書上は賃料の管理運用を委任したと記載されているが、土地の管理運用を委任したものと解すべきである。)。

ロ 原告博幸とスギウラ興産は、賃料月額の増額改定が行われる都度、委任契約を更新し、委任料を増額後の賃料月額と同額に改定していた。

(四)(1) 下管池の土地については、原告博幸が所有者として中京佐川に貸し付け、スギウラ興産に土地の管理運用を有償で委ねていた。

(2) 桜町及び下毛賀地の各土地については、形式的にスギウラ興産が杉浦製粉又はフジケンに各土地をそれぞれ貸し付けて、原告昌子、原告博幸及び健璽又は原告博幸がスギウラ興産に各土地の管理運用を有償で委ねていた。しかし、桜町の土地の所有者は、原告昌子、原告博幸及び健璽(平成五年以降は、原告昌子と原告博幸)、下毛賀地の土地の所有者は原告博幸であることや、これらの者が各土地の管理運用を有償でスギウラ興産に委任していることからして、各土地の賃貸は、スギウラ興産が原告博幸らのために賃貸したものというべきである。それゆえ、桜町及び下毛賀地の各土地についても、実質的には、原告博幸らが賃貸人であって、スギウラ興産は、原告博幸らから同土地の管理運用を委任された受任者として杉浦製粉又はフジケンに各土地を貸し付けたものであり、契約上の貸主名義がスギウラ興産になったにすぎず、その賃料は各土地の管理運用をスギウラ興産に委任した原告博幸らに帰属する。

2  平成四年以降の賃料の帰属

(一) 原告博幸及び原告昌子は、伊吹誠光(以下「伊吹」という。)の助力のもと、平成四年ころまでに、本件各土地に関する「処分以外の一切の管理権限」を原告博幸らからスギウラ興産に委譲することを内容とする権限委譲契約書をそれぞれ作成した。右各権限委譲契約書には、原告博幸らは、スギウラ興産に対して、本件各土地に関する一切の管理権限(処分以外の保存、利用、改良その他一切の行為をなす権限)を委譲するものとし、契約日以降、原告博幸らが各土地に関し一切の管理行為をしてはならないとの定めがある。契約日は、下管池の土地に係るものが昭和五八年五月四日、桜町の土地に係るものが昭和六一年一二月一日、下毛賀地の土地に係るものが平成二年八月一日と記載されている。

原告博幸は、伊吹の助力のもと、下管池の土地に関し、佐川急便に、遅くとも平成四年ころまでには、賃料を直接スギウラ興産名義の口座に振り込ませるようにした。そして、平成四年七月二一日、スギウラ興産に佐川急便に対する賃貸人たる地位を承継したとする公正証書を作成した。

(二) 各権限委譲契約の作成日付はいずれも本件各土地に係る各賃貸借契約締結日(下管池の土地については、スギウラ興産の設立日)となっている。

しかし、下管池の土地については昭和六〇年及び昭和六三年、桜町の土地については昭和六三年及び平成三年、それぞれ賃料を増額する契約の改定を行っており、契約書と矛盾するし、平成四年以前の調査で契約書が提示されたことがないことからして、右各権限委譲契約書は作成日付当時に作成されたものではない。むしろ、被告調査時に、原告博幸及び伊吹が認めるように、平成四年になって作成したものである。

そうすると、右各権限委譲契約書は、原告博幸らが所得税の負担を不当に軽減しようとする従前の管理委任契約の目的を維持しようとする意図の下に、平成四年の前訴に係る原処分を念頭において、賃貸借契約の当初から右権限委譲契約に記載された内容の合意がされていたとして、スギウラ興産がその管理権限に基づいて自己が賃貸人となることができるように装ったものにすぎないのであり、右権限委譲契約書は信用できない。

仮に、右各権限委譲契約書を平成四年以降の原告博幸らとスギウラ興産の法律関係を示す証拠であるとしても、原告博幸及び伊吹が異議申立ての際に要領を得ない回答をしていること、原告博幸らがスギウラ興産に対し、本件各土地の所有権はもとより、借地権等土地の利用に係る権利を譲渡あるいは贈与したとする事実もないこと、本件各土地は従前どおり、従前賃貸していた者に賃貸されていること等の諸事実を総合すると、「処分以外の一切の権限の委譲」とは、結局、従前どおり、所有者である原告博幸らが所有地である本件各土地の管理運用をスギウラ興産に委任するということと何ら変わりがない。

(三) 下管池の土地については、平成四年七月二一日付け公正証書により、スギウラ興産が原告博幸の佐川急便に対する賃貸人としての地位を承継したとされている。

しかし、原告博幸が中京佐川から預かった保証金六〇〇〇万円をスギウラ興産が承継したとして計上されていないこと、原告博幸が下管池の土地をスギウラ興産に譲渡したとかこれに借地権を設定したとか、賃貸人の地位の譲渡がされた事実も認められないこと、賃貸人の地位の承継は昭和五八年五月四日であると記載されているが、当時の賃貸人は原告博幸であったことと矛盾するので信用できない。なお、佐川急便からの賃料の振込先が原告博幸からスギウラ興産に変更されているが、これも下管池の土地の管理運用を委任されていたスギウラ興産の委任事務の一態様にすぎない。

3  原告らの主張に対する反論

(一) 原告らは、「処分以外の一切の権限の委譲」とは、物件に対する所有権(使用、収益、処分する権利)の一部である使用、収益する権利を譲渡し、処分する権限を留保することであり、管理権限の委譲を受けた者は貸主となって物件を賃貸し、その賃料を自己のものとして受領取得できるから、委任者を代理して物件を管理運用する権限を授与する委任契約とは異なるし、民法上も税法上も違法であると評価すべき法的理由も実質的理由もないから、第三者に対する関係では無効でも、当事者間では無効と解すべきではないと主張する。

(二) しかし、物権は債権と異なり、当事者間での自由な創設、変更を認められていないのであり(民法一七五条)、原告らが所有権の一部という形で物権と位置づけるのであれば、その譲渡は、新たな物権を創設し、これを設定ないし譲渡したことになり、違法無効となる。また、管理権限の委譲を債権と位置づけるとしても、その実態は本件各土地の管理運用の委任契約に他ならない。

(原告らの主張)

一  本件各土地の、平成四年一月から平成六年一二月までの、所有者、借地人、賃料額が被告の主張のとおりであることは認める。

しかし、次のとおり、スギウラ興産は、原告博幸、原告昌子及び健璽から本件各土地の所有権の一部である管理権限(使用、収益する権利)の譲渡を受けたものであるから、自ら賃貸借契約の賃貸人となり、賃料を受領取得できる。ところが、被告は、所得税法一五七条の解釈適用を誤り、原告博幸らに帰属すると認めた違法がある。

1  スギウラ興産設立の目的

スギウラ興産は、昭和五八年五月四日に原告博幸、原告昌子及び伊吹により設立されたが、その目的は、原告博幸、原告昌子及び健璽が所有する本件各土地を、同人ら及び伊吹の実質的な共同支配下に置き、杉浦一家とその親戚が一団となって賃貸人として管理することにあった。

2  スギウラ興産設立時の取決め

スギウラ興産設立時に、原告博幸、原告昌子、健璽及び伊吹は、下管池の土地の所有権は原告博幸の名義のままにしておくが、スギウラ興産は同土地について、売却処分ができないことを除き、一切の権限があること、原告博幸はスギウラ興産の承諾なしに下管池の土地を売却処分したり、他に貸与しないこと、下管池の土地の賃貸人を設立日にスギウラ興産に変更すること等の取決めをした。

3  原告博幸とスギウラ興産間の昭和五八年五月四日付け委任契約書について

2の取決め後、原告博幸が、各契約の賃料の管理運用をスギウラ興産に委託し、スギウラ興産に対して賃料月額と同額の委託料を支払う旨の契約書が作成されたが、これは、伊吹が税理士祖父江賢二に対し、賃借人である中京佐川に対し、スギウラ興産が土地を賃貸する権限があり、賃料を受領する権利があることを証明し、納得を得られる文書を作成するよう依頼した結果得られたものである。

しかし、右委任契約書は、スギウラ興産が下管池の土地の賃料を自己のものとして取得する権利があることを証明するような内容になっておらず、原告博幸が、賃貸人であることを前提とし、原告博幸が受領した賃料の管理運用をスギウラ興産に委任し、この委任に関して賃料と同額の金員をスギウラ興産に支払うというものであり、受領した賃料と同額の委任料を支払うということは、異常きわまることで経験則上あり得ないことであるから、右記載内容は虚構である。

したがって、右契約書の内容に従った契約は存在せず、原告博幸及び原告昌子がスギウラ興産に本件各土地の管理運用を委任し、一定の管理料を支払う旨の管理委任契約を締結した事実はない。

4  管理権限の委譲等に関する契約書(以下「本件権限委譲契約」という。)について

平成四年七月三一日、原告ら訴訟代理人が原告博幸らの昭和六三年分から平成二年分の所得税の更正処分に対する審査請求をする際に、前記3の委任契約書の内容を知り、また、伊吹から前記2の取決めを聴取した結果、取決め内容を文書としたのが、本件権限委譲契約書である。

従って、本件権限委譲契約書が実際に作成されたのは平成四年になってからであるが、その記載内容は、スギウラ興産が本件各土地の賃貸人となるに当たって取り決められた事項に基づいて記載されたものであり、その当時当事者間で成立した契約である。

5  管理権限の委譲と管理運用の委任の違い

管理権限の委譲は、物件に対する所有権(使用、収益、処分する権利)の一部である使用、収益する権利を譲渡し、処分する権利を留保することである。これに対し、管理運用の委任は、委任者が物件に対する所有権を全面的に留保し、委任者を代理して物件を管理運用する権限を受任者に授与することである。

従って、管理権限の委譲の場合には、譲受者が貸主となって物件を賃貸し、その賃料を自己のものとして受領取得できるが、管理運用の委任の場合には、受任者が物件の貸主となり、その賃料を自己のものとして受領取得することはできない。

管理権限の委譲は、民法上も税法上も違法と評価すべき法的理由も実質的理由も全く存在せず、たとえ第三者に対する関係で無効であるとしても、当事者間において無効と解すべき理由はない。

6  被告認定の違法性

(一) 本件各土地の賃料増額の際及び賃貸借契約締結の際に、伊吹が前記委任契約書の記載内容を模倣して、前記取決めに矛盾する委任契約書を作成しているが、これは、伊吹の法的判断力が著しく劣っているため、矛盾に気づかなかったのであって、原告博幸らの不動産所得を軽減しようとの意図から行ったものではない。

(二) 被告は、右各委任契約書を根拠に、本件各土地の所有者である原告博幸らが、本件各土地の管理運用を有償でスギウラ興産に委任したものであり、平成四年以降も同様であると主張する。

しかし、このような契約は異常極まるものであるので、経験則上締結されることのあり得ない契約であるから、違法な事実認定である。また、このような契約は、原告博幸らにとって、実行することによる利益がないものであり、現実に実行されたこともない。

二  仮に、本件各土地の実質的な賃貸人が原告博幸及び原告昌子であるとしても、右両名は、本件各土地から生ずる賃料を実際に享受していないから、賃料を原告博幸らに帰属すると認めることは所得税法一二条の解釈を誤ったもので違法である。

本件各土地から生ずる賃料を実際に享受しているのはスギウラ興産であるから、法人税法一一条の規定に従い、スギウラ興産に帰属すると認めるべきである。

三  被告は、本件各係争年度において、本件各土地から生じた賃料が原告博幸及び原告昌子に帰属すると認めるべきであるとする場合、原告博幸及び原告昌子は、スギウラ興産から役員報酬の支払を受けなかったものとして、総所得金額を算出すべきである。

ところが、被告は、本件各土地から生じた賃料がすべて原告博幸及び原告昌子に帰属するものとして、貸地収入に加算しながら、同時に、スギウラ興産が原告博幸又は原告昌子に支払った役員報酬をその給与所得として計上し、原告らの各総所得金額を算出したが、この計算は、原告らの所得税の負担を不当に増加する結果となるものであり、応能負担の原則に反し、違法である。

つまり、本件各係争年度におけるスギウラ興産の収入は、本件各土地から生じた賃料とこれに対する預金利息のみであって、スギウラ興産はこの賃料収入から、原告博幸及び原告昌子を含む役員報酬その他の経費を支払っていたのであり、スギウラ興産が原告らに役員報酬を支払ったこと、原告らがこれを給与収入に計上することは、スギウラ興産が本件各土地の賃料を受領し、処分したことを認めることであり、賃料がスギウラ興産に帰属することを認めることにほかならない。従って、本件各土地の賃料がすべて原告博幸らに帰属すると認めることと矛盾する。

また、原告博幸及び原告昌子がスギウラ興産から役員報酬を受領したことを認め、これを給与収入に計上しながら、他方、本件各土地の賃料がすべて原告博幸らに帰属すると認めることは、本件各土地の賃借人が、約定賃料の他に、少なくともスギウラ興産が支出した原告博幸らの役員報酬及び諸経費の合計額に相当する賃料を支払ったことを想定するもので、事実と矛盾する。

原告博幸らは、スギウラ興産から役員報酬を現実に享受しており、本件各土地から生じた賃料の全部又は一部を原告博幸に帰属するものと認めたとしても、原告博幸が経済的利益を現実に享受するわけではないし、スギウラ興産が、何らかの税負担上の利益を享受することになるものでもない。従って、原告博幸らがスギウラ興産から受領した役員報酬を給与収入として計上しながら、他方、本件各土地の賃料がすべて原告博幸らに帰属すると認めることは、原告博幸らが現実に享受した利益以上の経済的利益を享受したものとして課税することとなり、原告らの所得税の負担を不当に増加する結果となる。

2 本件各建物の賃料は、所有者に帰属するか、原告昌子に帰属するか(争点2)。

(被告の主張)

一  本件各建物の所有者・借家人・賃借期間・賃料

本件各建物の、平成四年一月から平成六年一二月における、所有者は、別紙物件目録二「所有者」欄記載のとおりであり、賃借期間、借家人及び賃料は、同目録二「賃借期間」「借家人」及び「賃料」欄各記載のとおりである。

二  賃料の帰属

本件各建物は、別紙物件目録二「所有者」欄記載のとおり、原告博幸の単独所有、原告昌子の単独所有、原告博幸と原告昌子の共有、又は原告博幸、原告昌子及び健璽の共有であり、右各賃料収入は、所有者の収入として計上されるべきである。

三  原告らの主張に対する反論

原告らは、原告博幸が単独で所有する本件各建物及びそれ以外の建物の貸家に係る賃料収入についても、世帯譲りの結果、原告昌子に帰属すると主張する。

前訴に係る係争年分(昭和六二年ないし平成二年分)において、原告らは、原告博幸が単独で所有するすべての貸家について、原告昌子がその実質的な賃貸人であるとして当該貸家から生ずる賃料収入は原告昌子に帰属する旨主張して争点の一つになっていた。

しかし、原告らは、右前訴に係る課税処分を機に、貸家については各所有者に所有が帰属することを自認し、本件各係争年分の原告博幸単独所有に係る大部分の貸家収入を、管理権限を有している原告昌子の所得ではなく、所有者である原告博幸の所得として申告した。本件更正処分は、貸家の所有者と当該貸家から生ずる所得の申告者が異なる本件各建物についてのみ所有者に所得が帰属するとして課税を行ったものである。

また、原告らは、本件各建物の所有権が誰に帰属するかにかかわらず、「世帯譲り」により管理権限の譲渡を受けた原告昌子が本件各建物の賃貸人となって現実に賃料収入を受領しているのであるから、当該貸家収入は原告昌子に帰属すると主張する。しかし、「世帯譲り」があったことをもって本件各建物の所有権がすべて原告昌子に帰属することはなく、「世帯譲り」があったとしても、「家長」として本件各建物の管理を引き受けたにすぎず、実態は委任契約とみるべきである。

(原告らの主張)

一  本件各建物の所有者・借家人・賃借期間・賃料

本件各建物の、平成四年一月から平成六年一二月における、所有者、賃借期間、借家人及び賃料が、別紙物件目録二各記載のとおりであることは認める。

二  賃料の帰属

しかし、次のような経緯により、本件各建物の賃貸人は原告昌子のみであって、原告博幸及び健璽は賃貸人ではない。また、賃料の全部を実際に享受しているのも原告昌子であるから、所得税法一二条に従い、賃料はすべて原告昌子に帰属する。なお、三棟の建物については、原告博幸が賃料すべてを自らの収入として申告したが、これは被告の誤った指導によるものである。

1  本件各建物のうち、「道上の建物」及び「池浦町の建物」は、もと杉浦義孝(原告博幸の父)が所有し、その他の建物は、もと杉浦貞三(原告博幸の祖父)が所有していたが、杉浦貞三が本件各建物の賃貸人となって賃料を自己のものとして取得していた。

2  杉浦義孝は昭和四〇年八月一日に死亡し、「道上の建物」及び「池浦町の建物」の所有権は、相続により、妻である原告昌子、子である原告博幸及び健璽に移転したが、杉浦貞三が本件各建物の賃貸人となって賃料を自己のものとして取得していた。

3  杉浦貞三は昭和四八年五月九日に死亡し、遺産分割により、その所有する建物は原告博幸が取得した。しかし、杉浦貞三の妻である杉浦こまが本件各建物の賃貸人となって賃料を自己のものとして取得していた。

4  原告昌子は、昭和五一年六月、杉浦こまから、「世帯譲り」を受けた。「世帯譲り」とは、対外的には杉浦家の代表権の譲渡を意味し、内部的には杉浦家の財産と認められる不動産その他の主要な財産に対する管理権限ないし収入の処分権限の譲渡を意味する。従って、本件各建物の賃貸人としての地位を譲る行為でもある。

3  本件各土地の管理料はどのくらいか(争点3)。

(被告の主張)

原告博幸らは、本件各土地の管理運用をスギウラ興産に有償で委任していたが、その管理料(委任料)の具体的金額は定かではない。

そこで、被告は、原告博幸が支払う管理料については、同族関係にない不動産管理会社に賃貸不動産の管理を委託している同業者の支払管理料金額を超えることはないというべきであるから、これを必要経費額と認めることにした。

被告は、原告博幸らの納税地を管轄する刈谷税務署管内において、原告博幸らと同様に不動産貸付業を営み青色申告書を提出している個人で、別紙「類似同業者抽出基準」に該当する者全員について、その賃貸料収入の金額及び支払管理料の金額の報告を求めた。なお、事業規模の基礎となる額を本件各土地に係る賃料額の合計額として、その半分から二倍の範囲(いわゆる倍半基準)内の賃料収入を得ている者を対象に類似同業者を抽出している。

調査の結果、類似同業者の各係争年分の賃貸料の金額に対する支払管理料の割合の平均値は、別表二の一ないし三に記載のとおり、次のとおりとなった。

平成四年 三・二四パーセント

平成五年 二・九二パーセント

平成六年 二・八一パーセント

そこで、原告博幸及び原告昌子の所有に係る土地に対応する管理料の額を計算すると、別表三に記載のように、次のとおりとなった。

平成四年 原告博幸 一一一万三〇七四円 原告昌子 四万二七八七円

平成五年 原告博幸 一〇〇万三三六八円 原告昌子 三万九〇一六円

平成六年 原告博幸 九六万七一三九円 原告昌子 三万七八一八円

(原告らの主張)

原告博幸は、本件各土地の賃貸人ではないし、本件各土地の管理運用をスギウラ興産に委任した事実もなく、賃料と同額の管理料をスギウラ興産に支払った事実もない。

よって、本件各土地に関する管理料に関して、所得税法一五七条を適用する余地はない。

仮に本件各土地に関する適正な管理料を認定する必要があるとしても、被告が主張する管理料が適正なものであることは争う。

第三当裁判所の判断

一  本件各土地の賃料は、所有者に帰属するか、スギウラ興産に帰属するか(争点1)。

1  本件各土地の所有者・借地人・賃料

平成四年一月から平成六年一二月における、本件各土地の所有者が、別紙物件目録一「所有者」欄記載のとおりであること、本件各土地の借地人及び賃料が、同目録一「借地人」欄及び「賃料」欄各記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

2  賃料の帰属

そこで、本件各土地の平成四年一月から平成六年一二月までの賃料が、所有者に帰属するのか、スギウラ興産に帰属するか検討する。

証拠(甲一七ないし一九、乙九、証人伊吹誠光)及び弁論の全趣旨によれば次の各事実が認められる。

(一) スギウラ興産について

スギウラ興産は、昭和五八年五月四日、原告ら住所地を本店所在地として、設立された。同社の目的は、土地・建物の賃貸・賃借・管理運営・売買・仲介その他右に付帯関連する一切の業務であり、原告昌子、原告博幸、健璽らを社員とする有限会社で、原告昌子、原告博幸らが取締役に就任した。代表取締役には、原告昌子が就任した(甲一九)。

(二) 下管池の土地について

(1) 原告博幸は、昭和四八年以降、下管池の土地を所有している(乙五の一ないし四)。

(2)イ 原告博幸は、昭和五六年一一月一六日、中京佐川との間において、下管池の土地を、賃貸借期間を三〇年、賃料月額八三万円との約定で、同社に賃貸する旨の契約を締結した(甲二)。

ロ 原告博幸と中京佐川は、昭和六〇年六月六日及び昭和六三年七月七日、右契約の賃料を増額する旨の合意をした(甲一七)。

ハ 中京佐川は、右賃料を、原告博幸名義の普通預金口座に振り込んで支払っていたが、平成三年七月ころから、スギウラ興産名義の普通預金口座に振り込んで支払うようになった(甲一二の一と八、一三の一ないし三)。原告博幸は、中京佐川から振り込まれた賃料をスギウラ興産名義の口座に振り替えていた(甲一二の一ないし七、一七)。

(3)イ 原告博幸は、昭和五八年五月四日、スギウラ興産との間において、下管池の土地の賃料月額八三万円の管理運用をスギウラ興産に委任し、スギウラ興産に対して賃料月額と同額の委任料を支払う旨の委任契約を締結した(甲六)。

ロ 原告博幸とスギウラ興産は、賃料月額の増額改定が行われる都度、委任契約を更新し、委任料を増額後の賃料月額と同額に改定していた。

(三) 桜町の土地について

(1) 原告昌子、原告博幸及び健璽は、昭和六一年当時、桜町の土地を持分各三分の一で共有していた(乙七の一と二)。平成五年までに、健璽は、右持分すべてを原告昌子に譲渡した(当事者間に争いがない)。

(2)イ スギウラ興産は、杉浦製粉との間で、昭和六一年一二月一日、桜町の土地を、賃貸借期間二年、賃料月額一五万〇〇二二円との約定で、賃貸する旨の契約を締結した(甲四)。

ロ スギウラ興産は、昭和六三年及び平成三年に賃貸借期間を更新し、賃料月額を増額した。

ハ 杉浦製粉は、右賃料を、スギウラ興産名義の預金口座に振り込んで支払っていた(甲一一の一と三と六と七、一二の一と五と七、一三の一ないし三)。

(3)イ 原告昌子、原告博幸及び健璽は、昭和六一年一二月一日、スギウラ興産との間において、桜町の土地の賃料月額一五万〇〇二二円の管理運用をスギウラ興産に委任し、スギウラ興産に対して賃料月額と同額の委任料を支払う旨の委任契約を締結した(乙八)。

ロ 原告昌子、原告博幸及び健璽とスギウラ興産は、賃料月額の増額改定が行われる都度(昭和六三年及び平成三年)、委任契約を更新し、委任料を増額後の賃料月額と同額に改定していた。

(四) 下毛賀地の土地について

(1) 原告博幸は、平成二年以降、下毛賀地の土地を所有している(乙六)。

(2)イ スギウラ興産は、フジケンとの間で、平成二年八月一日、下毛賀地の土地を、賃貸借期間を、平成二年九月一日から一年間、賃料月額八万五〇〇〇円との約定で、賃貸する旨の契約を締結した(甲五の一)。

ロ スギウラ興産は、フジケンとの間で、平成三年及び平成六年に、土地賃貸借更新契約を締結し、賃料月額を増額した。

ハ フジケンは、右賃料を、スギウラ興産名義の預金口座に振り込んで支払っていた(甲一二の一及び四ないし八、一三の一ないし三)。

(3)イ 原告博幸は、平成二年八月一日、スギウラ興産との間において、下毛賀地の土地の賃料月額八万五〇〇〇円の管理運用をスギウラ興産に委任し、スギウラ興産に対して賃料月額と同額の委任料を支払う旨の委任契約を締結した(甲七)。

ロ 原告博幸とスギウラ興産は、賃料月額の増額改定が行われる都度、委任契約を更新し、委任料を増額後の賃料月額と同額に改定していた。

(五) 管理権限の委譲等に関する契約書

原告博幸、健璽及び原告昌子は、スギウラ興産との間において、平成四年七月末日ころ、本件各土地に関し、本件権限委譲契約書(甲一の一ないし三)をそれぞれ作成した。

本件権限委譲契約書には、原告博幸らは、スギウラ興産に対して、本件各土地に関する一切の管理権限(処分以外の保存、利用、改良その他一切の行為をなす権限)を委譲するものとし、契約日以降、原告博幸らが各土地に関し一切の管理行為をしてはならない(第一条)、原告博幸らは、スギウラ興産の承諾を得ずに一切の処分行為をしてはならない(第二条)、スギウラ興産は原告博幸らに役員報酬として毎月一定額の給料を支払う(第四条。ただし甲一の一は第七条)との定めがある。なお、下管池の土地に係る契約書には、第三条として、原告博幸がスギウラ興産に対し、契約日に賃借人中京佐川との間の賃貸借契約における賃貸人の地位を譲渡するとの定め、第六条として、原告博幸は中京佐川から受領した保証金六〇〇〇万円をもって購入した有価証券等の所有名義を速やかにスギウラ興産名義に変更する手続をなし、右名義変更が完了するまでは、原告博幸とスギウラ興産が連帯して賃借人に六〇〇〇万円の保証金返還義務を負担するとの定めがある。

契約日は、下管池の土地に係るものが昭和五八年五月四日、桜町の土地に係るものが昭和六一年一二月一日、下毛賀池の土地に係るものが平成二年八月一日と記載されている。

本件権限委譲契約書が作成されたのは、原告博幸及び健璽の昭和六三年から平成二年分の所得税更正処分取消しについての、審査請求を提出する段階で、原告ら代理人が原案を作り、作成したものである。

(六) 公正証書

下管池の土地について、スギウラ興産と佐川急便株式会社(以下「佐川急便」という。)は、平成四年七月二一日、昭和五八年五月四日にスギウラ興産が原告博幸から、賃貸人たる地位を承継したこと(第一条)、佐川急便が合併により中京佐川の賃借人としての地位を承継したこと(第一五条)という内容の公正証書を作成した(甲三)。

3  評価

(一) 平成四年以前の法律関係

(1) 下管池の土地について

前記認定のように、中京佐川に対する賃貸借契約は、もともと原告博幸と中京佐川との間において締結されたものであり、スギウラ興産が設立された後も、原告博幸と中京佐川との間において賃料の増額に関する契約書が交わされ、賃料も原告博幸名義の口座に振り込まれていたこと、平成四年以前において、原告博幸とスギウラ興産との間には、原告博幸は、下管池の土地の賃料の管理運用をスギウラ興産に委任し、スギウラ興産に対して、賃料月額と同額の委任料を支払う旨の契約が締結されていたことが認められ、右賃貸借契約の賃貸人は、スギウラ興産が設立された後も、原告博幸が、右契約の賃料を取得していたのであり、スギウラ興産は、賃貸人たる原告博幸から、右契約の賃料の管理運用を委任されていたにすぎないものと認めるのが相当である。

原告らは、右賃貸借契約の賃貸人の地位は、スギウラ興産が設立された昭和五八年五月四日に、原告博幸からスギウラ興産に譲渡されたこと、原告博幸とスギウラ興産との間において、平成四年になってから、原告博幸は、スギウラ興産に対し、昭和五八年五月四日をもって、下管池の土地に関する一切の管理権限を委譲し、右賃貸借契約の賃貸人の地位を譲渡する旨の契約書が作成されたこと、右契約書の作成は平成四年であるが、その内容の合意は、昭和五八年五月四日ころ成立していたこと、スギウラ興産と佐川急便との間において、平成四年七月二一日に、昭和五八年五月四日にスギウラ興産が原告博幸から賃貸人の地位を承継したこと等を内容とする公正証書が作成されたことを理由として、賃貸人はスギウラ興産であると主張し、これに沿う証拠(甲一七ないし一九、証人伊吹誠光)もある。

しかしながら、原告博幸とスギウラ興産との間の委任契約書やスギウラ興産と佐川急便との間の公正証書は、平成四年七月末ころ作成されたものであり、賃貸人の地位がスギウラ興産に譲渡されたことについては、それと反対の事実が認められるから、証人伊吹誠光の右証言及び右認定の原告博幸とスギウラ興産との間の委任契約書やスギウラ興産と佐川急便との間の公正証書の記載を信用することはできない。

また、原告らは、右認定の契約書について、原告博幸が受領した賃料と同額の委任料を支払うということは、異常極まることであり得ないことであるから、右契約書の内容に従った契約は存在しなかった旨の主張をする。

確かに、管理運用を委任した賃料と同額の委任料を支払うという約定は、異例のものであるということができる。しかし、右委任料が全額必要経費と認められれば、賃料収入があってもそれに関する所得が存在しないことになって、原告博幸は所得税の支払を免れること、右契約書は、税理士が作成したものと認められること及び所得税の支払を免れること以外の目的で右のような約定を設ける理由は認められないことを総合すると、右のような異例の約定がなされたのは、原告博幸が所得税の支払を免れるためであったものと認められ、そうであるとすると、右のような約定がされたとしても不自然ではない。

なお、前記認定のスギウラ興産の目的からしても、右契約書に記載されている賃料の管理運用が、その目的に含まれないということはできない。

そして、前記認定のとおり、平成三年七月ころから、スギウラ興産が自社の預金口座に賃料の振込みを受けていることからすると、スギウラ興産が右賃貸借契約の賃料について管理運用をした事実が全くないとまでいうことはできないし、そもそもスギウラ興産が右賃貸借契約の賃料について管理運用をした事実がなかったとしても、そのことは、直ちに右認定の契約書の内容に従った契約の成立を認めることの妨げとなるものではない。

したがって、右認定の契約書の内容に従った契約の成立を認めることの妨げとなる事情は存在しないものというべきである。

(2) 桜町及び下毛賀地の各土地について

前記認定のように、桜町の土地は、平成四年は原告昌子、原告博幸及び健璽三名の共有、平成五年及び平成六年は原告昌子及び原告博幸の共有であり、下毛賀地の土地は、原告博幸の所有であったこと、昭和六一年一二月一日、桜町の土地について、スギウラ興産と杉浦製粉との間で、平成二年八月一日、下毛賀地の土地について、スギウラ興産とフジケンとの間で、それぞれ賃貸借契約が締結されたこと、原告昌子、原告博幸及び健璽又は原告博幸とスギウラ興産との間において、原告昌子、原告博幸及び健璽又は原告博幸は、スギワラ興産に対して、右契約の賃料の管理運用を委任し、賃料月額と同額の委任料を支払う旨の契約が締結されたこと、杉浦製粉及びフジケンは、右契約の賃料を、スギウラ興産名義の預金口座に振り込んで支払っていたこと、スギウラ興産が右三名の共有者から桜町の土地を賃借するなど、桜町の土地の賃料を取得する権限を有していたとすべき事情及び原告博幸から下毛賀地の土地を賃借するなど、下毛賀地の土地の賃料を取得する権限を有していたとすべき事情が認められないことを総合すると、右の杉浦製粉又はフジケンとの賃貸借契約の賃貸人はスギウラ興産でありスギウラ興産が賃料を支払を受けていたが、スギウラ興産は、桜町の土地について、右の三名の共有者のために、下毛賀地の土地について原告博幸のために、自己の名で賃貸借契約を締結したもので、その取得した賃料を右の三名の共有者又は原告博幸に引き渡す義務を負っていたものというべきである。

もっとも、証拠(甲一七、証人伊吹誠光)と弁論の全趣旨によると、スギウラ興産は、その取得した賃料を右の三名の共有者に現実に引き渡していないことが認められるが、それは、右の三名の共有者において、スギウラ興産に対して、右契約の賃料の管理運用を委任し、賃料月額と同額の委任料を支払う旨の契約が締結されていたためであると認められる。

そうすると、右契約による賃料は、桜町については平成四年は原告昌子、原告博幸及び健璽の三名に、平成五年及び六年は原告昌子及び原告博幸に、下毛賀地については原告博幸に帰属するものと認められる。

原告らは、原告昌子、原告博幸及び健璽とスギウラ興産との間には、昭和六一年一二月一日をもって、桜町の土地に関する一切の管理権限(処分以外の保存、利用、改良その他一切の行為をなす権限)を委譲する旨の契約書が存在すること、右契約書の作成は平成四年であるが、その内容の合意は、昭和六一年一二月一日ころ成立していたことを理由として、賃貸人はスギウラ興産であると主張し、これに沿う証拠(甲一七、証人伊吹誠光)もある。

しかしながら、右原告博幸とスギウラ興産との間の契約書は、平成四年になってから作成されたものであり、右契約書が存在するからといって、右の杉浦製粉との賃貸借契約が締結された昭和六一年当時、スギウラ興産が右契約書に記載されたような権限を有していたと認めることはできないし、また、仮に、その当時から、スギウラ興産が右契約書に記載されたような権限を有していたとしても、スギウラ興産は、その取得した賃料を原告昌子、原告博幸及び健璽に引き渡す義務を負っていたものというべきであるから、桜町の土地の賃料が原告昌子、原告博幸及び健璽の三名に帰属する旨の右認定を左右するものではない。

また、原告らは、右契約書について、原告昌子、原告博幸及び健璽が、受領した賃料と同額の委託料を支払うということは、異常極まることであり得ないことであるから、右契約書の内容に従った契約は存在しなかった旨の主張をする。しかし、管理運用を委任した賃料と同額の委託料を支払うという約定が不自然でないことやスギウラ興産が賃料の管理運用をすることができないものとすべき事情を認めることができないことは、前記認定のとおりであり、スギウラ興産が右の杉浦製粉との賃貸借契約の賃料を受領するなどしていたことからすると、スギウラ興産は右契約の賃料の管理をしていたものということができるから、右契約書の内容に従った契約の成立を認めることの妨げとなる事情は存在しないものというべきである。

下毛賀地の土地についても同様に、実質的には、原告博幸が賃貸人であって、スギウラ興産は、原告博幸から同土地の管理運用を委任された受任者としてフジケンに同土地を貸し付けたものであり、その賃料は原告博幸に帰属する。

(二) 平成四年以降の法律関係

平成四年以降に、本件権限委譲契約が作成されているので、この意味が問題となる。なお、右契約の日付はいずれも本件各土地に係る各賃貸借契約締結日(下管池の土地については、スギウラ興産の設立日)となっているが、前記認定のとおり、現実の作成日は平成四年七月末ころである。

原告らは、各契約日ころ、契約内容の合意があり、それを書面化したものであると主張する。

しかし、前記認定のように、下管池の土地については、スギウラ興産ではなく、原告博幸が昭和六〇年及び昭和六三年、中京佐川と賃料を増額する契約の改定を行っており、右合意があったとすれば矛盾する。また、合意があったのであれば、それを契約書として作成することに何らの障害もなかったものと認められるから、平成四年になって初めて契約書が作成されたことも合意がなかったことを推認される。

そもそも、本件各権限委譲契約書が作成されたのは、原告博幸及び健璽の昭和六三年から平成二年分の所得税更正処分取消しについての、審査請求を提出する段階で、原告ら訴訟代理人が相談を受けて作成されたものであり、以上の事情を総合考慮すると、本件権限委譲契約書は、原告博幸らが所得税の負担を不当に軽減しようとする従前の管理委任契約の目的を維持しようとする意図の下に、平成四年の前訴に係る原処分を念頭において、賃貸借契約の当初から右権限委譲契約に記載された内容の合意がされていたとして、スギウラ興産がその管理権限に基づいて自己が賃貸人となることができるように装ったものにすぎないのであり、本件権限委譲契約書は信用できない。

本件各更正処分に対する異議申立てにおいても、原告らは、異議申立ての理由欄で、本件各土地について、「管理運用をすべてスギウラ興産に委託している」と言っていること(乙一一の一ないし三、一二の一ないし三)、平成四年以降に、それ以前と異なり、原告博幸らがスギウラ興産に対し、本件各土地の所有権はもとより、借地権等土地の利用に係る権利を譲渡あるいは贈与したとする事実もないこと、本件各土地は従前どおり、従前賃貸していた者に賃貸されていること等の諸事実を総合すると、本件権限委譲契約書の「処分以外の一切の権限の委譲」とは、結局、従前どおり、所有者である原告博幸らが所有地である本件各土地の管理運用をスギウラ興産に委任することと同様の法律関係にあるものと認められる。

(三) 下管池の土地については、平成四年七月二一日付け公正証書により、スギウラ興産が原告博幸の佐川急便に対する賃貸人としての地位を承継したとされている。

しかし、原告博幸が佐川急便から預かった保証金六〇〇〇万円をスギウラ興産が承継したとして、法人税の申告において計上していないこと、原告博幸が下管池の土地をスギウラ興産に譲渡したとかこれに借地権を設定したとか、賃貸人の地位の譲渡がされた事実も認められないこと、賃貸人の地位の承継が昭和五八年五月四日であったとされているが、当時の賃貸人が原告博幸であったことと矛盾することから信用できない。なお、佐川急便からの賃料の振込先が原告博幸からスギウラ興産に変更されているが、これも下管池の土地の管理運用を委任されていたスギウラ興産の委任事務の一態様にすぎない。

(四) 原告らの主張に対する反論

原告らは、「処分以外の一切の権限の委譲」とは、物件に対する所有権(使用、収益、処分する権利)の一部である使用、収益する権利を譲渡し、処分する権限を留保することであり、管理権限の委譲を受けた者は貸主となって物件を賃貸し、その賃料を自己のものとして受領取得できるから、委任者を代理して物件を管理運用する権限を授与する委任契約とは異なると主張する。

しかし、この権限の委譲を物権とすると、新たな物権を創設することになり、物権法定主義(民法一七五条)に反するし、債権としても、前記認定のとおり、その実態は本件各土地の管理運用の委任契約に他ならないのであり、原告らの主張は採用できない。

4  原告らは、原告博幸及び原告昌子は、本件各土地から生ずる賃料を実際に享受していないから、賃料を原告博幸らに帰属すると認めることは所得税法一二条の解釈を誤ったもので違法であると主張する。

しかし、前記認定のとおり、本件各土地の賃貸人は原告らであり、スギウラ興産は受任者として賃料を管理しているにすぎないから、所得税法一二条に適合しているものである。

5  原告らは、被告が、本件各土地から生じた賃料がすべて原告博幸及び原告昌子に帰属するものとして、貸地収入に加算しながら、同時に、スギウラ興産が原告博幸又は原告昌子に支払った役員報酬をその給与所得として計上し、原告らの総所得金額を算出していることが、原告らの所得税の負担を不当に増加させ、応能負担の原則に反し、違法であると主張する。

しかしながら、すでに認定したとおり、本件各土地の賃料とスギウラ興産からの役員報酬とは別個の所得であるから、総所得金額の算定に当たって右賃料収入と右役員報酬をともに所得に含めて計算することが許されないとすべき理由はないものというべきである。原告らは、原告らに支払われた役員報酬は実質的に賃料であると主張するが、その金額は、賃料収入の額と一致しない上、各年分の役員報酬の原資が各年分の賃料であると認めるに足りる証拠もないから、原告らに支払われた役員報酬が実質的に賃料であると認めることはできない。

また、原告博幸らとスギウラ興産との間には、原告博幸らが、本件各土地の賃料の管理運用をスギウラ興産に委任し、スギウラ興産に対して、委任料を支払う旨の契約が、それぞれ締結されていたのであるから、本件各土地の賃料収入が原告博幸らに帰属するとしても、スギウラ興産は、右委任料の支払を受けることによって、原告らに対する役員報酬を支払うことができるものと認められる。

したがって、総所得金額の算定に当たって右役員報酬を右賃料収入とともに所得に含めて計算することは、違法ではない。

6  原告博幸の本件各係争年度における本件各土地から得られた貸地収入の額は、別表一の一「認定額」欄の「1総所得金額(1)不動産所得<1>貸地収入」欄に記載したとおりである。

原告昌子の本件各係争年度における桜町の土地から得られた貸地収入の額は、別表一の二「認定額」欄の「1総所得金額(1)不動産所得<1>貸地収入」欄に記載したとおりである。

二  本件各建物の賃料は、所有者に帰属するか、原告昌子に帰属するか(争点2)。

1  本件各建物の所有者・借家人・賃借期間・賃料

本件各建物の、平成四年一月から平成六年一二月における、所有者は、別紙物件目録二「所有者」欄記載のとおりであり、賃借期間、借家人及び賃料が、同目録二「賃借期間」欄、「借家人」欄及び「賃料」欄各記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

2  賃料の帰属

そこで、本件各建物の賃料が所有者の収入として計上されるべきか検討する。

証拠(甲一七、原告昌子、証人伊吹誠光)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 本件各建物のうち、「道上の建物」及び「池浦町の建物」は、もと杉浦義孝(原告博幸の父)が所有し、その他の建物は、もと杉浦貞三(原告博幸の祖父)が所有していたが、杉浦貞三が本件各建物の賃貸人となって賃料を自己のものとして取得していた。

(二) 杉浦義孝は昭和四〇年八月一日に死亡し、「道上の建物」及び「池浦町の建物」の所有権は、相続により、妻である原告昌子、子である原告博幸及び健璽に移転したが、杉浦貞三が本件各建物の賃貸人となって賃料を自己のものとして取得していた。

(三) 杉浦貞三は昭和四八年五月九日に死亡し、遺産分割により、その所有する建物は原告博幸が取得した。しかし、杉浦貞三の妻である杉浦こまが本件各建物の賃貸人となって賃料を自己のものとして取得していた。

(四) 原告昌子は、昭和五一年六月に、杉浦こまから、「世帯譲り」を受けた。そして、それ以後は、原告昌子が、貸家等の賃料を集金受領して、使用してきた。原告昌子が集金受領した右賃料は、原告昌子及び原告ら一家のために、その生活費等として使用されてきた。

(五) 前訴に係る係争年分(昭和六二年分ないし平成二年分)において、原告らは、原告博幸が単独で所有するすべての貸家について、原告昌子がその実質的な賃貸人であるとして当該貸家から生ずる賃料収入は原告昌子に帰属する旨主張して争点の一つになっていた。

(六) 原告らは、右前訴に係る課税処分を機に、貸家について、本件各係争年分の原告博幸単独所有に係る大部分の貸家収入を、管理権限を有している原告昌子の所得ではなく、所有者である原告博幸の所有して申告した(乙九、一四ないし一九)。

3  評価

以上認定の事実及び原告昌子が、原告らから貸家等を賃借するなど、自らが賃貸人となって貸家等を賃貸する権限を原告らから与えられていたとすべき事情は認められないことを総合すると、貸家の賃貸人は、その所有者であって、それらの者に賃料が帰属するものと認めることができ、原告昌子が貸家等の賃料を集金受領して使用してきた事実があったとしても、それは、原告昌子が、原告らの母親又は原告らを含む一家の長という立場上、原告らの代理人として、貸家等の賃料を受領して、原告らを含む一家のために使用してきたものと認めることが相当である。

また、原告らは、本件各建物の所有権が誰に帰属するかにかかわらず、「世帯譲り」により管理権限の譲渡を受けた原告昌子が本件各建物の賃貸人となって現実に賃料収入を受領しているのであるから、当該貸家収入は原告昌子に帰属すると主張する。しかし、前記認定のように、原告らの主張する「世帯譲り」があったとすれば、原告博幸名義の建物についての賃料もすべて原告昌子の収入とすべきであるのに、「三棟の建物」をはじめ、原告博幸は自己名義の建物の賃料を自らの収入として申告しているのであり、「世帯譲り」によって各建物の所有権がすべて原告昌子に帰属することはないものといわなければならない。原告昌子に「世帯譲り」があったとしても、「家長」として各建物の管理を引き受けたにすぎず、実態は所有者との委任契約とみるべきである。

三  本件各土地の管理料はどのくらいか(争点3)。

1  前記認定のとおり、原告博幸とスギウラ興産との間には、原告博幸は、下管池の土地及び下毛賀地の土地の賃料の管理運用をスギウラ興産に委任し、スギウラ興産に対して、委任料を支払う旨の契約が、原告昌子、原告博幸及び健璽とスギウラ興産との間には、原告昌子、原告博幸及び健璽(平成五年及び平成六年は原告昌子及び原告博幸)は、スギウラ興産に対して、桜町の土地の賃料の管理運用を委任し、委任料を支払う旨の契約が、それぞれ締結されていたことが認められる。

2  しかしながら、平成四年から平成六年までの間に、スギウラ興産が、下管池の土地の賃料について何らかの管理を行ったことを具体的に認めるに足りる証拠はない。また、スギウラ興産は、桜町の土地及び下毛賀地の土地については、右契約に従って賃料を受領するなどしてきたものと認められるが、それ以上に、桜町の土地及び下毛賀地の土地の賃料について管理を行ったことを具体的に認めるに足りる証拠はない。

さらに、本件各土地についてスギウラ興産が委任を受けている賃料の管理は、特段ノウハウが必要であったり、特段手間がかかったりするものであるとすべき事情は認められない。

以上述べたところからすると、右契約に基づいてスギウラ興産に対して支払われるべき適正な管理料の額の賃料の額に対する割合は、類似同業者の管理料の額の賃料の額に対する割合の平均値を上回るものではないというべきである。

3  しかるところ、

(一) 証拠(乙一ないし四)と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(1) 被告は、原告の納税地であり、かつ、本件各土地の所在地である安城市を所轄する刈谷税務署長に対して、対象年分を、平成四年、平成五年及び平成六年として、別紙「類似同業者抽出基準」に該当する者全員について、その賃料収入の金額及び支払管理料の金額について報告を求め、全員から報告を受けた。

なお、別紙「類似同業者抽出基準」(四)の金額は、いわゆる倍半基準を採用したもので、本件各土地についての原告昌子、原告博幸及び健璽の賃料収入を合計したものの半額から倍額までの金額である。

(2) 被告において、右の報告があった者の中から、貸地のみを有する者と貸地及び貸家を有する者を抽出したところ、その結果は、別表二の一ないし三のとおりであった。

なお、報告があった者の中には、貸地のみを有する者はなかったので、抽出した者は、すべて貸地及び貸家を有する者である。

(3) 右認定の類似同業者の抽出方法に特に不合理な点はなく、右抽出方法は合理的なものであるということができる。

(4) 右(2)及び(3)で判示したところからすると、右1の契約に基づいてスギウラ興産に対して支払われるべき適正な管理料の額の賃料の額に対する割合は、右(3)認定の類似同業者の管理料の額の賃料の額に対する割合の平均値を上回ることはないものと認められる。

(5) 弁論の全趣旨によると、スギウラ興産は、法人税法二条一〇号に規定する同族会社に当たるものと認められるところ、右1認定の管理料の額は、右(4)認定の適正な管理料の額を大きく上回るものであり、スギウラ興産の社員である原告博幸の所得税の負担を不当に減少させるものであるから、所得税法一五七条一項により、適正な管理料の範囲内についてのみ必要経費と認めることが相当である。

(6) したがって、原告博幸に関し、必要経費と認められる管理料の額は、別表三に記載された金額を上回ることはないから、原告博幸が右賃料収入を取得するのに要した管理料の額は、次の金額を上回ることはない。

平成四年 一一一万三〇七四円

平成五年 一〇〇万三三六八円

平成六年 九六万七一三九円

また、原告昌子に関し、必要経費と認められる管理料の額は、別表三に記載された金額を上回ることはないから、原告昌子が右賃料収入を取得するのに要した管理料の額は、次の金額を上回ることはない。

平成四年 四万二七八七円

平成五年 三万九〇一六円

平成六年 三万七八一八円

四  本件各処分の適法性

以上を前提に本件各処分の適法性について検討する。

1  原告博幸の総所得金額及び税額

(一) 平成四年分

(1) 不動産所得の金額

別表一の一における、平成四年の認定額欄記載の、1総所得金額(1)不動産所得のうち、<1>貸地収入、<2>貸家収入及び<3>礼金収入の合計から<4>必要経費を差し引いた二九三八万六六七一円となる。

(2) 給与所得の金額

原告博幸が安城市農業協同組合から受領した給与収入金額が五〇三万七七一四円であり、スギウラ興産から受領した役員報酬額が六七二万円であること及び給与所得控除額が二一八万二八八六円であることは、原告博幸が明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

なお、原告博幸は、給与収入として、原告昌子からの給料六〇万円を申告していたが、弁論の全趣旨によれば、これは原告博幸が青色申告者である原告昌子の「専従者」であることを前提とするものであるところ、安城市農業協同組合に勤務している原告博幸が原告昌子の事業の専従者と認めることはできないから(原告博幸は明らかに争わないので自白したものとみなす。)、算定しない。

そうすると、給与所得の金額は九五七万四八二八円となる。

(3) 総所得金額

右(1)の金額と右(2)の金額の合計額三八九六万一六九九円となる。

(4) 所得控除の額(一四二万五七八〇円)及び源泉徴収税額(二五三万五二〇〇円)は、原告博幸が明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

(5) 右(3)の総所得金額から右(4)の所得控除の額を差し引いて千円未満の端数を切り捨てると、課税される所得金額は三七五三万五〇〇〇円となり、税額は一四八六万七五〇〇円となる。これから右(4)の源泉徴収税額を差し引くと、納付すべき税額は一二三三万二三〇〇円となる。

(二) 平成五年分

(1) 不動産所得の金額

別表一の一における、平成五年の認定額欄記載の、1総所得金額(1)不動産所得のうち、<1>貸地収入、<2>貸家収入及び<3>礼金収入の合計から<4>必要経費を差し引いた三一五七万二七八六円となる。

(2) 給与所得の金額

原告博幸が安城市農業協同組合から受領した給与収入金額が五三四万二七二〇円であり、スギウラ興産から受領した役員報酬額が六七二万円であること及び給与所得控除額が二一九万八一三六円であることは、原告博幸が明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

そうすると、給与所得の金額は九八六万四五八四円となる。

(3) 総所得金額

右(1)の金額と右(2)の金額の合計額四一四三万七三七〇円となる。

(4) 所得控除の額(一四五万三七九七円)及び源泉徴収税額(二五五万六七〇〇円)は、原告博幸が明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

(5) 右(3)の総所得金額から右(4)の所得控除の額を差し引いて千円未満の端数を切り捨てると、課税される所得金額は三九九八万三〇〇〇円となり、税額は一六〇九万一五〇〇円となる。これから右(4)の源泉徴収税額を差し引くと、納付すべき税額は一三五三万四八〇〇円となる。

(三) 平成六年分

(1) 不動産所得の金額

別表一の一における、平成六年の認定額欄記載の、1総所得金額(1)不動産所得のうち、<1>貸地収入及び<2>貸家収入の合計から<4>必要経費を差し引いた三二三七万〇七二〇円となる。

(2) 給与所得の金額

原告博幸が安城市農業協同組合から受領した給与収入金額が五七四万一七一八円であり、スギウラ興産から受領した役員報酬額が六七二万円であること及び給与所得控除額が二二一万八〇八六円であることは、原告博幸が明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

そうすると、給与所得の金額は一〇二四万三六三二円となる。

(3) 総所得金額

右(1)の金額と右(2)の金額及び雑所得一万六七〇〇円の合計額四二六三万一〇五二円となる。

(4) 所得控除の額(一四七万五〇二三円)及び源泉徴収税額(二五三万九七〇〇円)は、原告博幸が明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

(5) 右(3)の総所得金額から右(4)の所得控除の額を差し引いて千円未満の端数を切り捨てると、課税される所得金額は四一一五万六〇〇〇円となり、税額は一六六七万八〇〇〇円となる。これから右(4)の源泉徴収税額及び特別減税額二〇〇万円を差し引くと、納付すべき税額は一二一三万八三〇〇円となる。

(四) 右(一)ないし(三)の総所得金額及び納付すべき税額は、いずれも前記第二の一1ないし3の各処分における総所得金額及び納付すべき税額を上回るから、これらの各処分は適法である。

2  原告昌子の総所得金額及び税額

(一) 平成四年分

(1) 不動産所得の金額

別表一の二における、平成四年の認定額欄記載の、1総所得金額(1)不動産所得のうち、<1>貸地収入、<2>貸家収入及び<4>雑収入の合計から<5>必要経費及び<6>青色申告特別控除の合計を差し引いた四〇九万九一〇八円となる。

(2) 給与所得等の金額

原告昌子がスギウラ興産から受領した役員報酬額が一二四二万七〇〇〇円であることは、原告昌子が明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

そうすると、給与所得の金額は一二四二万七〇〇〇円となる。

また、農業所得が一二一万八二九〇円の損失であること、雑所得が三七一万七三四一円であることも、原告昌子は明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

(3) 総所得金額

右(1)の金額と右(2)の金額の合計額一九〇二万五一五九円となる。

(4) 所得控除の額(一五四万八五九〇円)及び源泉徴収税額(二九三万〇八〇〇円)は、原告昌子が明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

(5) 右(3)の総所得金額から右(4)の所得控除の額を差し引いて千円未満の端数を切り捨てると、課税される所得金額は、一七四七万六〇〇〇円となり、税額は、五〇九万〇四〇〇円となる。これから右(4)の源泉徴収税額を差し引くと、納付すべき税額は二一五万九六〇〇円となる。

(二) 平成五年分

(1) 不動産所得の金額

別表一の二における、平成五年の認定額欄記載の、1総所得金額(1)不動産所得のうち、<1>貸地収入及び<2>貸家収入の合計から<5>必要経費及び<6>青色申告特別控除の合計を差し引いた二五一万三八二〇円となる。

(2) 給与所得の金額

原告昌子がスギウラ興産から受領した役員報酬額が一二四二万七〇〇〇円であることは、原告昌子が明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

そうすると、給与所得の金額は一二四二万七〇〇〇円となる。

また、農業所得が一五七万二〇二〇円の損失であること、雑所得が二四万一九〇〇円であることも、原告昌子は明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

(3) 総所得金額

右(1)の金額と右(2)の金額の合計額一三六一万〇七〇〇円となる。

(4) 所得控除の額(一五五万七九六〇円)及び源泉徴収税額(二九三万〇八〇〇円)は、原告昌子が明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

(5) 右(3)の総所得金額から右(4)の所得控除の額を差し引いて千円未満の端数を切り捨てると、課税される所得金額は、一二〇五万二〇〇〇円となり、税額は、二九二万〇八〇〇円となる。これから右(4)の源泉徴収税額を差し引くと、還付金の額に相当する金額は一万円となる。

(三) 平成六年分

(1) 不動産所得の金額

別表一の二における、平成六年の認定額欄記載の、1総所得金額(1)不動産所得のうち、<1>貸地収入、<2>貸家収入及び<3>礼金収入の合計から<5>必要経費及び<6>青色申告特別控除の合計を差し引いた二一八万六〇七三円となる。

(2) 給与所得の金額

原告昌子がスギウラ興産から受領した役員報酬額が一二四二万七〇〇〇円であることは、原告昌子が明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

そうすると、給与所得の金額は一二四二万七〇〇〇円となる。

また、農業所得が一三五万七〇三六円の損失であること、雑所得が三八〇〇万円であることも、原告昌子は明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

(3) 総所得金額

右(1)の金額と右(2)の金額の合計額一三二五万九八三七円となる。

(4) 所得控除の額(一六二万六二九三円)及び源泉徴収税額(二三四万四六〇〇円)は、原告昌子が明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

(5) 右(3)の総所得金額から右(4)の所得控除の額を差し引いて千円未満の端数を切り捨てると、課税される所得金額は一一六三万三〇〇〇円となり、税額は二七五万三二〇〇円となる。これから右(4)の源泉徴収税額及び特別減税額五五万〇六四〇円を差し引くと、還付金の額に相当する金額は一四万二〇四〇円となる。

(四) 右(一)ないし(三)の総所得金額は、いずれも前記第二の一5ないし7の各処分における総所得金額を上回り、その結果、右(一)の納付すべき税額は前記第二の一5処分における納付すべき税額を上回り、右(二)及び(三)の還付金の額に相当する金額は、いずれも第二の一6及び7の各処分における還付金の額に相当する金額を下回るから、これらの各処分は適法である。

第四総括

よって、本件請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 佐藤哲治 裁判官 達野ゆき)

物件目録一

<省略>

物件目録二

<省略>

別紙

類似同業者抽出基準

次の一ないし四のいずれにも該当する個人

(一) 貴署管内において、不動産貸付業を営む個人事業者のうち、所得税法一四三条(青色申告)の承認を受けて、平成四年分ないし平成六年分の所得税の確定申告について、青色申告書を貴職に対して提出している個人

ただし、次のイないしホに該当する個人を除く。

イ 貸家収入のみを有する個人

ロ 貴署管内以外の地域に貸地・貸家を有する個人

ハ 上記期間の中途において、開業、廃業又は業種目等の変更をした個人

ニ 更正処分又は決定処分を受けた個人のうち、国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間を経過していない個人並びに不服申立中又は訴訟中の個人

ホ この報告書の作成日現在において、所得税の調査が行われている個人

(二) 貸地・貸家の管理を同族関係(法人税法二条一〇号に規定する同族会社)にない不動産管理会社に委任している個人

(三) 締結する管理委託契約の事業内容が主として賃貸契約の締結、更新、賃貸料の集金等である個人

(四) 各年分の支払管理料の対象となる賃貸物件に係る賃貸料収入が、次の範囲内である個人

イ 平成四年分の賃貸料収入が、一七八三万七三五二円以上七一三四万九四〇八円以下

ロ 平成五年分の賃貸料収入が、一七八四万九〇二九円以上七一三九万六一一六円以下

ハ 平成六年分の賃貸料収入が、一七八八万一七七五円以上七一五二万七一〇〇円以下

別表一の一

<省略>

別表一の二

<省略>

別表二の一

類似同業者比率表(平成4年分)

<省略>

別表二の二

類似同業者比率表(平成5年分)

<省略>

類似同業者比率表(平成5年分)

<省略>

(注)「<3>」欄は、小数点第5位以下を切り上げて算出した。

別表二の三 類似同業者比率表(平成6年分)

<省略>

類似同業者比率表(平成6年分)

<省略>

(注1)「<3>」欄は、小数点第5位以下を切り上げて算出した。

別表三

管理料の計算表

(平成4年分)

<省略>

(平成5年分)

<省略>

(平成6年分)

<省略>

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